講座「発達障がいの理解~共に育つためにできること~」の報告
7月3日(水)に、昨年度好評だった講座「発達障がいの理解」を、今年度も横浜市教育委員会の冢田 三枝子(つかだ みえこ)先生を講師に迎え、実施しました。
前半:講義
後半:ロールプレイ を報告します。
講 義
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<特別支援教育の現状>
- 横浜市の児童数は、近年では横ばいだが、特別支援教育の対象児童数は増加している。
- 特別支援学校の中には、知的障がい、聴覚障害、視覚障害、入院中の人等、さまざまな人が通い、週1回の通級指導教室もある。
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子どもたちは常に集団の中で暮らしている。集団の中では子ども同士のトラブルが起きることも多いため、支援しやすいようにと、大人は子どもを分けてしまいがちになる。しかし、他の子どもや周囲の大人の振る舞いから学ぶことは多く、分けてしまうことで子どもの学ぶ機会を奪ってしまっている。
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発達障がいは特性によって、自閉症・アスペルガー症候群・学習障がい(LD)・注意欠陥多動性障がい(AD/HD)などに分類されるが、これらの障がいは明確に分けられるものではなく、それぞれが重なりあっている。
- 自閉症児童がとる行動について「なぜ行うのか」「何に困っているのか」考えることで、子どもを見る目が育ち、適切な実態把握、適切な支援に繋がる。このことは、自閉症以外の子どもの理解にも繋がる。
<理解できない行動>
- 何度言っても同じことをくり返す
- すべき行動をしない
- 突然怒り出す など
→「なんでこんなことするの?」と疑問に思った時が、子どもを理解するチャンス。理解できないままだと、子どもも自分たちもお互いに辛いだけになってしまう。行動には必ず理由があります!。
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<発達障がいの分類と特性>
● 学習障がい(LD)
経験している困難)
聞く、読む、書くなど、特定の能力の使用・習得に著しい困難を示す。これらの能力は学習する上での基礎的な能力のため、すべての授業に影響してしまう。幼い時は、記憶力などでカバーしており、カバーしきれなくなるまで理解できてなかったことに大人が気づかないこともある。
子どもへの対応)
「わかんない」と子どもが言ったら「よくわかんないって聞けたね」といった声掛けをする。それによって、困った時は助けてもらえば良いことや、困っていることをどのように伝えたらよいかを学習するようになる。
● 注意欠陥多動性障がい(AD/HD)
経験している困難)
注意力が持続せず、話を聞いていられないために、何度も同じ失敗を繰り返してしまう。
子どもへの対応)
話をする場合は、注意を惹きつけてから行う。また、感情的に話すと伝わりにくく、時間を短く区切り、簡潔に話す。
経験している困難)
ルール違反が多く、注意や叱責を受けることも多いため、友達からの評価が低い。
子どもへの対応)
守れそうなルールを設定し、定着を図るとともに、やる気を育む。また、良いところをみつけて言葉にして伝えるようにし、人前では叱らない。
● 自閉症
経験している困難)
字義通りの理解、勘違いが多く、コミュニケーションが一方的。
子どもへの対応)
やりとりのモデルを示したり、ロールプレイをしたりしてコミュニケーションの練習をしていく。
経験している困難)
興味・関心の範囲が狭く、こだわりが強いため、周囲からわがままな性格と受け取られやすく、いじめやからかいの対象になりやすい。
子どもへの対応)
自閉症の子どもは、新しいルールを受け入れるのに時間がかかる。外国の異文化になれる大変さと似ている。ルールを守れないことよりも、努力をほめてあげる。周りの子には「今○○さんは、ルールについて練習中なんだよ」と伝える。他の子の時も同様にする。
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子どもへの対応例を記載しましたが、これはあくまで例であり、どの子どもにもあてはまるというものではありません。子どもの理解に努め、一人ひとりに応じて支援することが大切なようです。
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<集団の中で支援者ができること>
- 診断名で判断せず、その子に必要な支援をする(特性が強い子も弱い子もいる)。
- 人前で叱らない。
集団の中で叱ると、周囲の子どもたちからいつも叱られている子”のレッテルがはられ評価が下がり、“、いじめの原因にもなる。叱るときはこっそり叱る。反対に、褒める時は皆の前で褒める。
- 望ましい行動を教える。
注意する時、「~しちゃダメ」という言い方では、特定の子ども(ルール違反をした子ども)にしか声が届かない。「~しようね」という言い方をすることで、既にできている子どもも含めた子どもたち全員に声が届く。また、感情的になると子どもは聞く耳を閉ざしてしまうので、淡々と話すようにする。
- 障がいのある子がパニック状態になった時の対応
- 本人(または周りの子どもたち)を安全な場所に移し、一人にして落ち着かせ
- これをすると落ち着く、という決まり事をあらかじめ確認しておき、対処する。
落ち着いた後に、良かったところや以前と比べて変わったところを周りの子どもたちに伝えてあげると、その子どもの良い点や変化に目を向けるようになる。
- ダメなことはダメとはっきり伝える。
障がいのある子をからかうような子どもがいる場合は、早い段階で、良くないことだと伝える。(イジメの芽を摘むことになる。)
- 個人を育てる、というよりも、集団を育てる、という意識を持つ。
マイナスもプラスの見方で伝え、個性や特性を認め合える環境をつくる。
例)「支度が遅い」→「ていねいに支度している」
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子どもをつなぎ、大人からの「支援を減らす」ことが大切だと冢田先生はおっしゃいます。誰しも人の欠点に目がいきがちですが、大人が“よいとこと見つけ名人”になり子どもも、そうなっていくことが障がいのある子も周りの子も共に育てる支援と言えるのかもしれません。
後半は、ロールプレイから参加者同士の情報交換・意見交換を行いました。
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ロールプレイ
【テーマ】
皆で何して遊ぶかを決める。
【役 割】
①スタッフ、②否定的な意見を言う子、③思っていることを言わない・言えない子、④積極的に発言する子、⑤周りの意見に左右されやすい子
先ずは、放課後児童施設の日常の様子を基に、参加者がスタッフや子どもの役に分かれて、グループ毎にロールプレイをしました。ロールプレイでは、スタッフ役以外は誰がどんなタイプの子を演じているか、演じている本人以外誰もわからない中で、設定したテーマについて話し合いました。
10分間のロールプレイ後、それぞれがどういった子を演じ、話し合いの中でどんなことを感じたか、また、スタッフ役のどんな点が良かったかについて意見交換をしました。このロールプレイの目的は以下の通りです。
①子どもの立場で考え、発言することにより子どもの気持ちを理解すること。
②子どもたちの意見がまとまらない場面で、どのような指導が有効であるかを考えること。
あるグループでは、「否定的な意見を言う子は、本当は一緒にやりたいけど何か不安があるので否定的になってしまうのではないか。」、「意見を言わない子は、意見を誰かが意見を聞きだしてくれるのを待っているのではないか。」という意見や、「スタッフ役の、子ども全員の意見を聞き出そうとする点が良かった」といった感想が出ていました。
まとめ
最後に、「絶えず集団の中にいる」子どもたちが共に育つために、スタッフができる支援のポイントを挙げていただきました。いくつかを紹介します。
- 良いところに目を向け、ほめる
スタッフがそうすることで、周りの子どもたちもその子の良いところに気づき、目を向けるようになる。良くないところを叱ってばかりでは、周りの子どもたちもその子に対して低い評価を与えるようになってしまう。 - 子ども同士をつなぐ
子ども同士でお互いへの理解が充分でない場合は、子どもの思いを汲み取り、代わりに伝えてあげることで、理解が不充分な点を補う。但し、大人の方で気を回してやりすぎてしまうと、長期的に見て、子どもの成長を妨げてしまう。支援はなるべく減らし、子どもの方から周りに助けを求められるように仕向けていくと良い。 - 集団を体験させる
集団の中で他の考え方を知ったり、他者の行動を真似たりと、子どもは、大人が思っている以上に、周りの人から色々なことを学んでいる。異学年が交われる場面などをつくり、役割をあたえてあげる。難しい場合は、モデルを見せて練習をする。 - 信頼し、役割を与える
「この子でもできる」というものがあれば、集団の中で役割を与えてあげる。役割を担うことで子どもの自信にも繋がる。また役割を与えることは、その子をほめる機会を作り出すことにもなる。
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「子どもが笑顔でいるためには、スタッフが笑顔でいることが大切」
そのために限界を知り、無理しない。良いところは言葉にして認め合い、つらい気持ちは共感し合えるような、スタッフ同士の繋がりも大切にしてください(冢田先生より)。
今回、60名近くの方からお申込みの電話をいただきました。“それだけ多くの方が今、発達障がいに目を向けている”。その事実がまた1つ、みなさんの支えになったら幸いです。
*みなさまからの質問を冢田先生の回答と一緒にいくつかご紹介します*
Q1.してはいけない事をやめさせるには、どうしたら良いですか?
A1.まずは“絶対にしてはいけないこと”と“許容範囲があること”の区別をし、スタッフ間で一貫性を持つことが大切。
Q2.支援が必要な子をケアしていると他の子から文句が出る。
A2.みんな特別扱いしてほしいもの。みんな大人に構ってほしい。呼び方ひとつで、特別な扱いになる。
Q3.走っている子どもへ何度注意してもやめない。
A3.紙に「歩きます」と書いて見せる。廊下の真ん中にコーンを置くなど視覚的な対応してみると分 かる子どももいる。