講座「発達障がいの理解~障がいのある子もない子も共に育つためにできるコト~」報告①【育成C】
7月10日(火)に、昨年度好評だった講座「発達障がいの理解」を、横浜市教育委員会の冢田 三枝子(つかだ みえこ)先生を講師に迎え、実施しました。今年度は講義の他に、新たにグループディスカッションの時間を設定し、参加者が日頃の取り組みや課題等を共有できるようにしました。
そこで先ずは、前半に行った講義の内容について報告します。
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<特別支援教育の現状>
- 横浜市の児童数は、近年では横ばいの状況だが、特別支援教育の対象児童数は増加している。
- かつては、個別支援学級・特別支援学級が複数の学区に一つという状況だったが、学校ごとにあれば子どもたちが通いやすく、地域の中で育つことができるため、現在は、横浜市内の小学校全校に配置されている。
- 子どもたちは常に集団の中で暮らしている。集団の中では子ども同士のトラブルが起きることも多いため、指導しやすいようにと、大人は子どもを集団から分けてしまいがちになる。しかし、他の子どもや周囲の大人の振る舞いから学ぶことは多く、分けてしまうことで子どもの学ぶ機会を奪ってしまっている。
<横浜市の取組み>
- 発達障がいは特性によって、自閉症・アスペルガー症候群・学習障がい(LD)・注意欠陥多動性障がい(AD/HD)などに分類されるが、これらの障がいは明確に分けられるものではなく、それぞれが重なりあっている。そこで横浜市では、困難を経験する機会が一番多いと考えられる、自閉症児者への理解や支援を推進している。
- 自閉症児童がとる行動について「なぜ行うのか」「何に困っているのか」考えることで、子どもを見る目が育ち、適切な実態把握、適切な支援に繋がる。このことは、自閉症以外の子どもの理解にも繋がる。
- 子どもの理解できない行動に対して、「なんでこんなことするの?」と疑問に思った時が、子どもを理解するチャンス。理解できないままだと、子どもも自分たちもお互いに辛いだけになってしまう。
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<発達障がいの分類と特性>
● 学習障がい(LD)
経験している困難)
聞く、読む、書くなど、特定の能力の使用・習得に著しい困難を示す。これらの能力は学習する上での基礎的な能力のため、すべての授業に影響してしまう。そのため、当事者の子どもは自信を失くし、学習する意欲も失くしてしまう。
子どもへの対応)
困っている場面では、すぐに子どもの替わりにやってしまうのではなく、「どうしたの」といった声掛けをする。それによって、困った時は助けてもらえば良いことや、困っていることをどのように伝えたらよいかを学習するようになる。
● 注意欠陥多動性障がい(AD/HD)
経験している困難)
注意力が持続せず、話を聞いていられないために、何度も同じ失敗を繰り返してしまう。
子どもへの対応)
話をする場合は、名前を呼ぶなどして注意を惹きつけてから行う。また、時間を短く区切り、簡潔に話す。
経験している困難)
ルール違反が多く、注意や叱責を受けることも多いため、友達からの評価が低い。
子どもへの対応)
守れそうなルールを設定し、定着を図るとともに、やる気を育む。また、良いところをみつけて言葉にして伝えるようにし、人前では叱らない。
● 自閉症
経験している困難)
字義通りの理解、勘違いが多く、コミュニケーションが一方的。
子どもへの対応)
やりとりのモデルを示したり、ロールプレイをしてコミュニケーションの練習をしていく。
経験している困難)
興味・関心の範囲が狭く、こだわりが強いため、周囲からわがままな性格と受け取られやすく、いじめやからかいの対象になりやすい。
子どもへの対応)
自閉症の子どもは、独特の世界観があり独自の理解をするので、文化が違うと捉えた方が良い。但し、周囲の子どもたちにそれを理解してもらうのは難しいので、スタッフが子どもの良い面を見つけ出して、他の子どもに伝えてあげると良い。
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子どもへの対応例を記載しましたが、これはあくまで例であり、どの子どもにもあてはまるというものではありません。子どもの理解に努め、一人ひとりに応じて支援することが大切なようです。
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<集団の中で支援者ができること>
- 子どもがもっている力を充分に発揮できるように、子どもの視点やエネルギーを認めてあげる。
- 人前で叱らない。
集団の中で叱ると、周囲の子どもたちからの評価が下がり、叱られた子に良い影響を与えないので、叱るときはこっそり叱る。反対に、褒める時は皆の前で褒める。
- 望ましい行動を教える。
注意する時、「~しちゃダメ」という言い方では、特定の子ども(ルール違反をした子ども)にしか声が届かない。「~しようね」という言い方をすることで、既にできている子どもも含めた子どもたち全員に声が届く。また、感情的になると子どもは聞く耳を閉ざしてしまうので、淡々と話すようにする。
- 障がいのある子がパニック状態になった時の対応
- 本人(または周りの子どもたち)を安全な場所に移し、一人にして落ち着かせ
- これをすると落ち着く、という決まり事をあらかじめ確認しておき、対処する。
また、落ち着いた後に、良かったところや以前と比べて変わったところを周りの子どもたちに伝えてあげると、その子どもの良い点や変化に目を向けるようになる。
- ダメなことはダメとはっきり伝える。
障がいのある子をからかうような子どもがいる場合は、早い段階で、良くないことだと伝える。(イジメの芽を摘むことになる。)
- 障がいのある子どもに対して、年齢相応の言葉遣いをする。
そうでないと、周りの子どもたちから低い評価を受けることに繋がってしまう。また、年齢相応に対することで、本人も自分の成長を自覚できる。
- 個人を育てる、というよりも、集団を育てる、という意識を持つ。
集団の中で障がいのある子どもの個性や特性をどう活かせるかを考えるようにする。
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冢田先生は、「答えを教えてあげることが支援ではなく、答えられるように導いてあげることが支援」と強調しています。子どもからすぐに答えが返ってこないと、ついつい大人は、答えを教えてしまいがちです。すぐに答えが出ない場合でも待ってみるなど、子どもの力を信じてあげることが子どもにとって一番の支援かもしれませんね。