活動レポート青少年育成センター

  • 掲載日:2014年1月31日
  • 掲載者:shisetsu

【報告】よこはまユースシンポジウム『子どもたちをめぐる格差と学習支援』

よこはまユースシンポジウム『子どもたちをめぐる格差と学習支援』報告

 

はじめに

よこはまユースは、さまざまな背景を持っている子どもたちが、人との出会いや体験を通して健やかに育っていけるよう、地域の人々と共に支えることを活動理念としている。

「格差」というと「貧困」が取り上げられることが多いが、、子どもたちが抱える格差問題は、それだけではない。今回のシンポジウムでも、困難さを格差で括らず、多様な角度から子どもたちを支援できる、具体的な事例の一つとして、学習支援を取り上げた。そして、社会からドロップアウトした若者、生活保護世帯の中学生、母語が日本語ではない小学生、居場所施設に来る青少年と、対象が異なる学習支援の実践者にご登壇いただくことで、さまざまな理由で生きづらさを感じ、学習機会の格差を抱えている子ども・若者の現状や、支援団体の課題について知り、そのうえで、子どもたちに地域の大人ができることについて、会場全体で考えることができた。

学習支援の役割は、進学や学校への復帰のための勉強をすることだが、それよりもむしろ、子どもたちの生活の面での支援や、格差の中で奪われてしまった自己肯定感を回復させることに、高い効果をあげている。登壇者たちも、居場所としての機能の必要性について説いていた。学習支援を通して、認める・認められる、許す許される関係の中で、子どもたちが自分を受け止めてくれる仲間や大人と出会い、自己肯定感を回復し、人間関係を学んでいくことがねらいである。

今回のシンポジウムには多くの申込みがあり、募集開始から1ヶ月で定員を超え申込みを締め切ることになった。問合せ件数は100件を超えた。改めて、「子どもをめぐる格差」「学習支援」への関心の高さが窺えた。子どもたちの成長を支援したいと考えている大人が、大勢いるということが分かった。そのような人たちにとっての活動のヒントや、新しい事を始めるきっかけとなるシンポジウムを目標に、企画を進めた。

1   実施日時:平成26年1月11日(土)

 2 内  容:

1.問題提起 ○コーディネーター

NPO法人ピアサポートネットしぶや 理事長 相川良子さん

2.事例報告 ○報告者:

・認定NPO法人文化学習協同ネットワーク   清水貴之さん

・神奈川区国際協力ネットワーク   吉見江利さん

・横浜市青少年交流センター「学習マイプラン」   城山修さん

3.パネルディスカッション 「子どもたちをめぐる格差を超えるためにできること」
4.まとめ 登壇者からの提言

【要旨】

(1)  問題提起「事例の中でみえる格差の問題」

学習機会の格差を抱えている子どもたちが抱えている本当の問題は、人間関係の希薄さ、生活経験の少なさから、自己肯定感が育っていないことだ。そして、子どもたちの環境が多様化し、問題が複雑化している現代では、困難さをカテゴライズ化し対応するのではなく、今、目の前にいる子どもたちとしっかり向き合い、ともに考えながら進めていくことが大切である。

(2)  事例報告

NPO法人文化学習協同ネットワーク 清水貴之さん

生活保護世帯の中学生を対象に、高校進学を目標とした学習支援を、行政と連携し、週1回行っている。スタッフは、学生ボランティア、コーディネーター(元教員)等。

○歳の近い学生ボランティアが主体的に直接子どもに関わることで、子どもたちの思いがけない「つぶやき」や「ひとこと」を拾うことも多く、また、子どもたちのロールモデルとしての役目も果たしている。知り得た子どもの情報は、他のスタッフと共有し、必要であれば公的機関に相談するなど、生活についてのサポートも行っている。

○格差を抱えた子どもたちは生活経験が圧倒的に乏しい。そして、わからないことが恥ずかしく、人に聞くことができないという悩みも抱えている。

○高校に進学しても、格差を抱えた若者には、学校生活や進路についてなど、課題は多い。そんな高校生に対しても相談の場所、居場所として開かれていることもある。

○大人のスタッフとの出会いを通して、子どもたち自身が厳しい現実にいる自分と向き合う事を可能にし、自分の将来を描けていること、自己肯定感を回復できていること、新しい価値観を得られていることに価値があるのではないか。若者は現代社会の中で、さまざまな問題に直面しているが、それは彼らの心が壊れているためではなく、人と人との関係性が壊れているため。

神奈川区国際協力ネットワーク 吉見江利さん

外国人登録者が横浜市で5番目に多いにも関わらず、神奈川区には国際交流ラウンジが無く、外国にルーツを持つことの困難さを共有・相談する場が存在しなかった。そこで、地域で有志を募り、学習支援を行う支援の場を作り上げた。助成金事業として区も協力し、動いている。区役所や学校等、放課後に子どもたちが来やすい場所に訪問して、出張型の学習支援を行っている。

○母語が日本語でない子どもは来日から1年ぐらいで日常会話はできるようになるが、学習言語を習得するには5年~7年かかる。学校でも半年~1年の間日本語の初期指導を行っているが、それでも学習に追いつけない児童もいる。

○保護者も日本語ができない、仕事で忙しいなど、家庭で日本語教育ができない状況だと、子どもたちは学習レベルまで日本語を習得することができない。また、そのような場合は、親も孤立傾向にある。子どもだけでなく、親の支援も必要だと気がついた。

○日本語がうまく話せないため、友達ができにくい。また、自分のルーツ(アイデンティティ)に自信がなくなってしまうこともある。結果として、不登校、進学が難しい、職業の選択の余地がないというような、社会に適応していくことが難しい状態になってしまう可能性が高い。

○支援を受けた子どもの保護者の中から、支援側になりたいという人も出てくる。当事者との橋渡しができるスタッフであり、貴重な人材だと考えている。

○資金が限られているため、スタッフの交通費が出せない。そのため、依頼をやむなく断ることもある。資金の獲得が、継続的な支援の鍵になる。

「学習マイプラン」ボランティア 城山修さん

横浜市青少年交流センターは、青少年の居場所を目的としており、その中の一つの事業として、「学習マイプラン」が位置付けられている。家庭での学びが困難な子どもたちに対して、ボランティアスタッフを公募し、さまざまな人材による学習支援を行っている。

○参加対象が絞られていないため、様々な青少年がやってくる。生活保護世帯の他にも、不登校、通信制高校生、塾替わりの利用等、それぞれ目的も課題も異なる。

○「いつでも」「だれでも」参加可能というスタンスの良さがあるが、反面、参加者に自発的に来所してもらえないと、継続して支援できない。

○成果を出す事は大変難しく、ボランティアの動機付けとは結びつけてはいけないと感じた。

○高度経済成長時代に生きてきたが、後の世代に、たくさんの負の遺産を残してしまったという思いがあり、罪滅ぼしのためにボランティアを始めようと考えたことが、ボランティアを始めたきっかけ。また、今まで生きてきた中で、周りの人から助けてもらった「借り」を、また誰かに返したいとも思った。それから、社会の役に立っているという安心感を求めている。つまり、自分のためにボランティアを続けていると考えている。借りた物を返している感覚なので、対価は必要ないが、子どもたちが課題をクリアした時、気持ちが通じ合った時は格別に嬉しく、「ご褒美をもらった」と思っている。

(3)  パネルディスカッション

A. 意見交換

○人が集まる場を作ったからと言って、来てくれるとは限らない。むやみやたらと開くのではなく、対象を絞ることで、支援できることを明確にする事も一つの方法。

○子どもを待っている大人がいるということが大切。

○子どもに役割を与えていくと、「やめづらい=続きやすい」環境が作れる

○シニア世代には、役に立ちたいと思っている人たちが多い。人生の先輩として「大丈夫だよ」と後押しをする役目を担う。

○シニア・若者・子どもを含めて地域で何かできるようになると、世代間格差・地域間格差がなくなっていくのではないか。

B. 登壇者からひと言

○清水:助け合いの関係が崩れてしまっている。生きづらさは誰しも抱えることがあるもの。一緒の世代を生きている仲間として、彼らを支えているという感覚でいることが重要。

○吉見:子どもたちとその家族が地域の日本人とともに暮らすことができるようになることが、目標。

○城山:参加する子どもたちが少なくなっても必要性がないとは思わない。「待つこと」が大切。

 

(4) まとめ・提言

○格差の最大の問題は、それが原因で周囲と関係性を作れず、居場所を失い、社会から孤立してしまう事である。「待っている大人がいる」ということを、子どもに気付かせること。

○子どもが育つ場所は、家庭(しつけ)→学校(学び)→地域(育て)である。家庭ごと支援する姿勢で、「一緒に考えよう」というスタンスでいること。親が、親として子どもを育てられるように支援する。

○学校とつながるために、学校側のコーディネーターとしっかりつながること。もしくは自分がコーディネーターになり、周りを巻き込んでいくこと。そして、子ども・学校・家庭とつながり、子どもと一緒にプログラムをしていく必要がある。

 3 アンケートから:(抜粋)

<参加目的>

・小さなボランティアグループだが、スタッフの人材や運営面でのヒント探し。

・若者支援に関わりたいと考えているため。

・子どもに対する大人の責任の大きさの確認

<地域の大人の一員として自分にできる事>

・身近にいる子どもへの関心を持ち続ける。できると思われることから参加して、継続する。

・常にそこにいてくれる存在、緩やかな見守りをする大人になること

<感想・ご意見など>

・城山さんの「自分のために、ボランティア」しているという一言が印象的。

・できると思って始めて3年、無力感を感じることが多いです。それでも続けることに意味があるのかもしれません。

おわりによこはまユースができること

今回のシンポジウムを通して、格差の問題に関する関心の高さ、青少年を支えたいと考えている人の多さが伺えた半面、次のような課題も、アンケートや参加者の所属から明らかになった。

第1に、大勢の大人が、青少年が気にかかってはいるが、きっかけがつかめずにアクションを起こせず二の足を踏んでいるのではないかということ。アンケートを見ると、学習支援団体に所属していない参加者が全体の50%近くを占めていた。このことから、貴重な人材が、地域には大量に眠っていると考えられるのではないか。

第2に、活動を広く発信できず、中々活動が認められない団体がいること。アンケートや質問用紙、グループワークの中での意見でも、資金や人材、場所などが見つからなかったり、学校や行政と連携が取れなかったりで、活動の拡大や継続が不安または困難だと洩らしている団体が多く見受けられた。

第3に、課題を抱え行き詰まりを感じながらも、打開策が講じられずに活動を続けている団体が多いということも実感した。学習支援団体に所属している参加者は、それぞれ課題をもって参加していて、活動のヒントを求めていた。

つまり、お互いにつながりを持ちたいと思いながら、繋がれていない。支援団体の継続・更なる充実のために必要なのは、柔軟なネットワークづくりであると感じた。団体内外、行政、保護者、学校、地域と協力体制を作り、フォーマル・インフォーマルなつながりを作ることが大切である。

しかしながら、子どもたちの支援をしながら、新しい繋がりを作り、活動について発信していくことはなかなか難しい。そのようなつながりを作るために、横浜市青少年育成センターのような中間支援機関はある。青少年を支えたいと考え、多くのボランティアやNPO団体が立ち上がっている今、中間支援機関は、重要な役目を担っていると、改めて感じた。

 

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